相続放棄

相続放棄とは

相続開始(被相続人が死亡した時点)後に相続人が被相続人(相続される人)の権利や義務一切を引き継がないこと

権利には、被相続人の財産や債権(プラスの財産、マイナスの財産=負債)が含まれます。

亡くなった方の相続人は、亡くなった方に借金がある場合は、借金を相続することになります。

マイナス財産(借金等)がプラス財産よりも大きい場合は、相続放棄をすることにより借金を承継しないというメリットが生じます。

相続放棄の手続・方法

相続放棄は民法915条で「相続人は、自己のために相続の開始があったことを知った時から三箇月以内に、相続について放棄をしなければならない。」 と定められています。

具体的には、被相続人の最後の住所地(死亡時の住所)である地域の管轄内の家庭裁判所に「相続放棄申述書」を提出して行います。(民法938条)

家庭裁判所での手続きの流れ

  • 1、 管轄の家庭裁判所に「相続放棄申述書」を提出します。
  • 2、 相続人の住所地に家庭裁判所から「照会書」が送付されます。
  • 3、 「照会書」には、相続放棄に関する質問事項が記載されています。
  • 質問の回答を「回答書」に記載して、家庭裁判所に送り返します。

  • 4、家庭裁判所から「相続放棄申述受理通知書」が送付されます。

  • (回答書の内容により 送付されない場合もあります。
    相続放棄については民法で「このような場合はできません」という制約事項があります。
    「相続放棄の際に注意するべきこと」で詳しく説明します)

    1から4までの期間は、裁判所により異なりますが、概ね2週間~1か月程度です。

    相続放棄申述の期間的制約

    民法915条に定められている通り、相続放棄は相続開始があったことを知った時から3か月以内にしなければなりません。

    具体的には、被相続人が死亡したことを知った時から3か月以内となります。

    しかし、生前から被相続人が借金をしていたことも知らず、死後も借金の存在がわからないこともよくあります。

    民法の条文を忠実に解釈すれば、相続を知って3ケ月以内に相続放棄しなかった場合には、相続放棄ができなくなります。(民法915条、921条2項)

    しかし、「昭和59年4月27日最高裁判決」により相当の理由があれば、借金の事実を知ってから3か月以内でも相続放棄が認められるようになりました。
    (詳しくは、下記「相続放棄申述に関しての注意事項」の事例1を参照ください)
    相続開始後3か月を経過していても、認められるケースは多くあります。

    相続開始後時間が経過している方でもあきらめずにご相談ください。

    「相続放棄申述書」が家裁に対して相続放棄が申述された証明書になるので、関係者(債権者やその他の関係者)に提示することにより、相続放棄がされたことを関係者が認識します。

    具体的効果としては、債権者は、相続放棄した人に対して請求できなくなります。
    (相続放棄により新たに相続人になった人(後述)に対して請求することになります)

    「相続放棄申述通知書」は相続人が家庭裁判所に相続放棄の申述をしたことの証明書となります。

    「相続放棄申述受理証明書」と同様の証明書面です。

    「相続放棄申述受理通知書」は紛失した場合、再発行はされません。

    もし紛失した場合に相続放棄申述したことの証明をするには申述した家裁に「相続放棄申述受理証明書」の申請をします。

    「相続放棄申述受理証明書」は申請すれば何度でも発行されます。

    相続放棄申述に関しての注意事項

    相続放棄の申述を家裁が受理したことと、法律上、相続放棄が確定(認定)されたこととは別問題です。

    どういうことかというと「相続放棄申述」手続というのは、家裁に「申述」をして、家裁がその申述を受理したということです。

    その人の相続放棄が法律的に有効に確定したことを証明するものではないといえます。

    ですので、家裁の発行する証明書は「相続放棄証明書」ではなく、「相続放棄申述受理証明書」なのです。

    わかりにくいかと思いますので、実際に起こった事例を基に説明します。

       事例1

    Aさんの父であるBさんが2015年5月3日に死亡しました。

    Aさんは、父であるBさんが死亡したことを同年9月3日に知りました。

    Aさんのところに同年12月5日、Bさんが昔クレジットカードで借りていたカード会社C社から相続人宛の請求書が来て、Bさんが生前借り入れをしていた事実を知りました。

    Aさんはその後弁護士に相談したところ相続放棄の手続きを勧められて、最終的に翌年の3月15日に家裁に相続放棄の申述をしました。

    家裁は、その相続放棄の申述を3月28日受理しました。

    民法915条で「相続人は、自己のために相続の開始があったことを知った時から三箇月以内に、~中略~放棄をしなければならない」とあるので、本来は、父の死亡の事実を知った9月3日から3か月以内に「相続放棄」の手続きをしなければならないのですが、この時点では、父に借金があるかどうかわかりません。

    借金をする人は、家族に内緒で、借入をすることが多いので、その人の死後も借金していたかどうかわからないことが多いのです。

    借金があることを知ったのは、死亡の事実を知って3か月後なのですが、民法の条文通りだとAさんは相続放棄ができないことになります。

    過去、貸金業者が民法の相続放棄の手続きの定めを巧みに利用して、借主が死亡してもわざと3か月の期間は、あえて請求をしないで、死亡後3か月を超えて相続放棄ができなくなった時期に請求をすることが多々ありました。条文の解釈によると、この場合相続放棄ができないことになります。

    しかし、最高裁判決で「3か月以内に相続放棄をしなかったのが、相続財産が全く存在しないと信じたためであり、かつ、このように信ずるについて相当な理由がある場合には、民法915条1項所定の期間は、相続人が相続財産の全部もしくは一部の存在を認識した時または通常これを認識しうべかりし時から起算するのが相当である。」と判示されました。(最高裁昭和59年4月27日判決)

    よって、Aさんの場合も相当の理由があれば負の相続財産である借金の事実を知った時点から3か月以内に相続放棄が有効にできるということになります。

    しかし相続放棄の申述をしたのは、借金の事実を知った時点から3か月以上経過した日に申述をしました。
    (Aさんは、相続放棄の制度は知っていたが、期間制限を知らず、弁護士に相談して初めてそのことを知り、申述が遅れたのです。)

    家庭裁判所は、証拠を提出させたり、本人や証人を呼び出して話を聞いたりして受理するのではなく、書面審査で受理を決めるので、明らかに法令に違背していない限り、受理をすることになります。

    そして、Aさんは債権者C社からの請求に対して「相続放棄」の事実を主張しました。しかし、C社は相続人への請求をAさんに宛てて内容証明郵便で送付しており、配達証明も有していました。よって、C社は「Aさんは、父死亡及び債務の存在の事実を遅くとも12月5日には(C社からの通知によって)知っていた。

    よって、Aさんの(12月5日から3か月以上経過した3月15日提出の)相続放棄申述は民法915条に照らして無効である」と主張しました。C社とAさんの主張は相いれず、C社は地方裁判所に提訴して争ったところ、内容証明及び配達証明の日付(12月5日付)が決め手となり、Aさんは敗訴し、AさんはBさんの借金を承継し、支払い義務があるとされました。

    このように、例え、家庭裁判所で、「相続放棄」が受理されても、その相続放棄の有効性について争いがある場合は、民事裁判で争われるのです。

    尚、このような争いはケースバイケースであり、個別に異なります。

    相続放棄の効果

    その相続に関して初めから相続人ではなかったことになる。(民法939条)

         

    1 財産の非承継

      マイナス財産(借金)も引き継がないことになりますが、プラス財産も引き継がないことになります。

     

    権利の非承継 

    権利の例 債権 賃貸人としての権利 引き渡し請求権等

    例外 次の権利は、相続放棄に関係なく民法の定めによる承継者に引き継がれます。

    祭祀(先祖を供養すること)や保険金、葬祭費

    2 本来相続人でない人(第2順位相続人、第3順位相続人)が相続人になる場合がある。(事例ケース参照)

    事例ケース1 

    夫(父)Zが亡くなり、妻Aと子B,Cの2人が相続人となった場合

    (1) 子B1人のみが相続放棄した場合
    妻とCが相続人となります

    ⑵ 妻のみが相続放棄した場合
      B,Cが相続人となります

    ⑶ A,B,C全員が相続放棄した場合
      Zの父母D,Eが相続人となります。

    ①  Zの父Dのみが相続放棄した場合
        Zの母Eが相続人となります

    ②  Zの両親が既に死亡しているか、両親とも相続放棄した場合
    Zの兄弟であるF,Gが相続人となります。

    ③ Zの兄弟が全員相続放棄した場合
    相続人不存在となります。

    ※下記のケースでは間違いやすいので注意しましょう

    事例ケース2

    父であるAが死亡、(Aの配偶者は離婚)子B(兄弟無)が相続人となり、祖父Cが存命(祖母Dは既に死亡)である場合

    Bが相続放棄、その後祖父であるCが死亡した場合

    Bが相続放棄したことにより、Aの相続人はCとなります。

    Cが死亡した場合どうなるか?

     Bは、Cを代襲相続します。

    代襲相続とは被相続人が死亡する以前に相続人が既に死亡していた場合相続人の子が相続する制度のことです。(民法887条2項)

    上記事例でいうと、祖父Cが死亡した時点で本来相続するはずのCの子であるAが既に死亡しているので、Aの子のBが相続することになります。

    まわりまわって、BがAの相続をする結果となります。

    Aの相続放棄をしたのになぜ?と思われるかもしれません。

    その理由は、民法の規定にあります。

    相続放棄を定めた民法939条では、「相続の放棄をした者は、その相続に関しては、初めから相続人とならなかったもの」としています。

    その相続=AからBに関する相続のことです。

    Bは、Aの相続に関しては、相続放棄しましたが、これは、Aの相続に関してのみ効果があります。

    BはCの代襲相続に関しては、「Aの相続」とは異なりますので、Bは代襲相続により、Cが承継したAの相続に関しても相続することになります。

    もし、Bが相続を承継しないならば、Bは改めてCの相続に関して相続放棄をしないといけません。

    事例ケース3

     Aには子B,孫Cがいます。Aが死亡しました。

    その後、Bが相続放棄をしました。

    相続放棄の効果は、「はじめから相続人でなかったことになる」ので、Cから見るとAの死亡と同時にAの相続人がいないことになります。

    この場合、Cは代襲相続となるのか?

    いいえ、孫Cは、Aの死亡に関して代襲相続となりません。

    代襲相続を定めた民法887条2項は、「被相続人の子が、相続の開始以前に死亡したとき、又は第八百九十一条の規定(相続欠格)に該当し、若しくは廃除によって、その相続権を失ったときは、その者の子がこれを代襲して相続人となる。」と定められています。

    上記条文に相続放棄が含まれていないことから、(被相続人の子Bの)相続放棄により(Bが)相続権を失った場合は、(Cの)代襲相続とはならないということになります。

    3 祭祀(祖先の供養、祭ること)や、遺骨、墓石、仏壇は相続財産ではないので、例え相続放棄をしてもひきつぐことになります。

    遺骨の引き取りや、葬儀を行いたくないという理由で、相続放棄を選択しても目的にかないません

    相続財産かどうかについて詳しくは相続Q&A7「相続財産の範囲」もご参照ください。

    相続放棄をする前もしくはする際に注意するべきこと

    1、 してはいけないこと

    下記の行為をしてしまうと単純承認(=相続)したことになり、相続放棄ができなくなります

    ※単純承認とは、被相続人の権利義務を承継することを相続人が無限定に承認することです。

    (1)相続財産の費消、処分

    ※ 相続放棄後もしてはいけません 民法921条

    どのような財産が相続財産となるのか、ならないのか正確に把握することが大事です。

    相続財産を費消してしまったら、「相続財産と知らなかった」といっても、後戻りできなくなります。

    相続財産となるかどうかについては詳しくは相続Q&A7「相続財産の範囲」もご参照ください。

    ある財産が相続財産となる場合は、相続放棄した場合その財産を相続(受領、承継)できません。

    相続人が他にいない場合、相続財産を管理する義務はありますが、詳しくは「相続放棄をした後に注意するべきこと 1」で説明します。

    注意すべき財産については、以下、説明します。

    ア 香典 葬儀助成金 死亡一時金

    香典は遺産ではなく喪主や遺族に対する贈与金です。

    又国保から支給される葬祭費助成金も喪主に対して支払われるもので、遺産には該当しないと考えます。

    死亡一時金も遺族の固有の権利金です。

    イ 位牌・仏壇・墓

    先祖の供養を行う権利は祭祀権といって、民法897条の趣旨として系譜、祭具及び墳墓の所有権は、相続財産ではなく、「慣習に従って祖先の祭祀を主宰すべき者が承継する」こととなっています

    よって、相続放棄するしないに関わらず、承継すべき者が承継します。

    ウ 生命保険金

    生命保険契約で被保険者が被相続人の場合で受取人が相続人の場合、保険金は、受取人固有の財産であり、相続財産ではありません。

    被相続人が受取人となっている場合は相続財産となります。

    エ 遺族年金・未支給年金

    遺族基礎年金、遺族厚生年金は遺族固有の権利であり、相続財産では有りません。

    また、被相続人への未支給の年金は以下の条件に該当すれば、受給できます。

    「死亡した者の配偶者、子、父母、孫、祖父母、又は兄弟姉妹」であり「死亡当時に同一生計であった場合」

    そして上記未支給年金は相続財産ではなく、遺族の固有の権利です。
    (平成7年11月7日最高裁判決)

    オ 死亡退職金

    「社員が亡くなった場合は、遺族が受け取る」旨の規定がある場合は、遺族の固有財産となります。

    カ 前納していたが、本人が死亡したために払いすぎとなった場合の還付金

     (税金、年金、保険料)

    相続財産となります。

    特に年金保険料の還付の場合、エの未支給年金と勘違いして受け取らないようにご注意ください。

    以上、相続財産となるべき財産は、受け取ったらいけない(相続放棄できなくなる)わけではなく、相続財産を費消、処分したりすると相続放棄ができなくなるということです。

    受け取っても相続財産として自分の固有財産とは別に管理保管しておけばよいのですが、できうる限り、受け取らないほうが無難です。

    事情により受け取らざるをえなかった場合は、自分の固有財産と混同せず、個別管理し、費消処分しないように注意しなければなりません。

    そして相続放棄により、新しく相続する人が相続することになった場合は、速やかに相続人に引き渡すことが必要です。

    (2)相続財産の中から支払っても大丈夫なもの

    以下の支出に関しては、相続財産から支払っても、相続人による費消、処分とはなりませんが、「不相当な金額」の場合やケースバイケースにより処分とみなされる場合もあるので注意が必要です。

    相続放棄する場合は、被相続人に関する支払いは、支払い義務がなくなりますので、支払う必要はないのですが、支払いをしないといけない場合も出てきます。

    そういった場合や後述する「債務の支払い」も含めて相続人の固有財産から支払うことは問題ありません。できる限り、相続財産からの支払いはしない方が無難です。

      

    ア 葬儀費用

    葬儀費用を遺産から支払っても遺産の処分に当たらない(下級審判例)とされています。

    しかし、一般的な相当程度を超えた豪華で不相当な葬儀費用については、認められないと考えたほうがよいでしょう。

     
    イ 支払期日の到来している債務

    (3)でも説明しますが、相続人死亡時に既に支払い期限が来ている債務(電気代や、家賃、電話代等)については、相続財産から支払っても相続財産の処分とはなりませんが、支払期日の間違い等誤って遺産の処分を行うこともあるので、支払いをせずにしておき、どうしても支払わなければいけない場合のみ相続人の固有財産から支払うことをお勧めします。

    (3)債務の支払い

    気を付けたいのは、期限の到来した債務(被相続人死亡時に支払期日が経過しているもの)については、相続財産から支払っても相続財産の処分に該当しませんが、支払期日がきている債務でも被相続人が支払わなくてもよいものを支払うと相続財産の処分に該当します。

    また支払期日がまだきていない債務について支払うと相続財産の処分となります。

    いずれの債務も相続人固有の財産から支払うには問題ないですが、相続放棄をするのであれば、相続人としての支払い義務を承継しない(支払義務がなくなる)ので、支払う必要はありません。

          よって、心情的にどうしても支払わないといけない被相続人の債務(入院費用等)のみ払うようにして、なおかつ遺産からではなく相続人の固有財産から払うほうが安全です。

    (4)遺産分割協議

    当たり前ですが、遺産分割協議は相続財産を承継することを前提として行う協議ですので、単純承認とみなされる可能性があります。

    (5)その他

    2以下でも詳しく説明しますが、被相続人が賃貸人であった場合の賃料請求や、会費等の還付請求、被相続人に支払う口座等の変更手続き(例:賃料の入金口座)も単純承認とみなされる可能性があります。注意ください

    2、 各種契約の手続、管理上注意すべき財産

    (1) 相続放棄をする場合の被相続人が外部の人と締結した各種契約についての対応

    被相続人の生前行ってきた各種契約について、相手方に連絡すると、往々にして「解約してください」といわれることがあります。

    しかし、解約というのは、前提として被相続人の「契約当事者」としての地位を承継することにより、解約権を行使することになります。

    つまり、解約することは、契約当事者の地位を引き継ぐ=相続となります。

    場合によっては、相続財産の処分に該当し、「法定単純承認」となり相続放棄ができなくなります。

    相続放棄するのであれば、解約となるようなことはするべきではありません。

    基本的には、相手方に「契約当事者は死亡しました。私は相続人ですが、相続放棄する予定です」と伝えれば、十分です。

    以下、生前被相続人の締結した契約について注意すべき事項を個別に説明します。
    ア 不動産の賃貸借契約(借主)

    被相続人が生前、借家に住んでいた場合(賃貸借契約の契約当事者であった)

    下記のケースに分けて説明します。

    共通して言えることは、相続放棄をする予定の場合は、敷金は相続財産となりますので、敷金返還の請求をしないでください。
    (被相続人の権利の承継による行使となり、法定単純承認とみなされる可能性があります)
    また、できる限り受け取らないでください。

    受領した場合は、相続財産として個別に管理する必要があります。

    また、賃貸借契約の解約についても賃借権の承継となりますので、しないでください。

    (ア) 単身住まいの場合

    貸主(賃貸人、大家)に借家人が死亡したことを伝えてください。

    借家内の家具等の動産の撤去を求められた場合には、相続人が撤去して、保管しなければなりません

    相続を放棄しても、相続財産の管理責任はありますので、新しく相続人となる者に引き渡すまで管理義務が生じます。(民法940条)

    そして、保管場所がない場合は、保管場所を確保しなければならないので負担になりますが、原則処分はできないので相続人には負担となります。

    保管料等の費用が発生する場合には、換価(お金に換える)してその代金を相続財産として管理する方法も考えられますが、換価した場合に相続財産の費消とみられてしまうこともあるので、慎重な対応が必要です。

    そのようなことでお困りの方は個別にご相談ください。

    全相続人が相続放棄した場合、相続人がいつまでも保管費用を払い続けることにもなります。

    相続財産が高価な場合は、「相続財産管理人」を選任して管理をゆだねる方法もありますが、財産価値が少ない場合はそれも不採算となります。

    上記の場合も含めて相続放棄後の相続財産の管理については「相続放棄後に注意するべきこと」で後述します。

    (イ) 相続人の同居者がいる場合

    被相続人の配偶者や子が被相続人と同居していた場合で、同じ借家に住み続けたい場合は、どうすればよいでしょうか?

    居住していた借家を立ち退いてもよい場合は、(ア)の通りとなりますが、継続して住みたい場合は注意が必要です。

    貸主から「生前の借主の賃貸借契約は解約したうえで、改めて、契約を締結してください」と言われた場合、「相続放棄する予定なので、旧契約を解約する権限はありません」ということになります。

    また、ここで注意するべきことは、本来、賃貸借契約では、借主の権利は法律で保護されていて、賃借人が死亡しても相続人が賃借権を相続でき、継続して住み続けることができるのです。

    しかし、相続放棄は、賃借権の相続(承継)を放棄することになります。

    その場合、法律的には、賃貸人から「それでは、貴方は何の権利もないのだから出て行ってください」といわれても賃借権の主張をすることはできないということにはなります。

    よって、(被相続人の賃貸借契約の解約はしないで)貸主と相続人との合意の上で個別の賃貸借契約が新たに締結できれば、住み続けることが可能となります。

     

    (ウ)敷金

    敷金については、アの共通する事項で説明の通り、返還請求しないでください。

    また可能な限り受領しない方がよいです。

    イ各種債務

      クレジットカードや銀行、貸金業者からの借入については、 特にこちらから連絡しなくてもよいと考えますが、連絡する場合は「契約者(債務者)は死亡しました。

    私は、相続人ですが、相続放棄をする予定です(相続放棄しました)」とだけ伝えればよいでしょう。

    勿論、残債務を支払う必要はないし、請求されても「相続放棄の予定(若しくは放棄済み)」を伝えれば請求されることはありません。

    ウ 電話代、電気代、水道代 税金

    被相続人が単身で住んでいた場合は、死亡の事実を伝えればよいわけですが、解約手続きや未納料金の納付を求められた場合は相続放棄する旨を伝えれば良いです。

    相続放棄をすることにより未納料金・未納税金の支払い義務はなくなるわけですので、支払いをする必要はないのですが、支払う場合は相続人固有の財産から支払うようにすれば安心です。

    エ その他の契約

    (ア) 被相続人が貸主となっている賃貸借契約
    賃貸借契約による賃料収入は相続財産となります。

    相続放棄する場合は、賃貸借契約の賃貸人の地位を承継しないので、賃貸人としての下記のような行為はしてはいけません。

    例:賃借人への賃料の請求行為 賃借料入金口座の変更手続き

    (新規募集の)新たな賃貸借契約の締結

    ただし、下記の期間内の賃貸であれば、単純承認とはなりません。 (民法921条但書)

  • ⅰ 樹木の栽植又は伐採を目的とする山林の賃貸 10年
  • ⅱ 前号に掲げる賃貸借以外の土地の賃貸 5年
  • ⅲ 建物の賃貸 3年
  • ⅳ 動産の賃貸 6か月
  • しかし、土地建物の短期賃貸借契約を締結すると、借地借家法が適用され、借主が契約の更新を希望した場合、契約の更新を拒絶できなくなり、短期賃貸借の期間を超過する可能性があります。

    よって、相続放棄をする予定であれば、被相続人死亡後は、土地建物の賃貸借契約をしないほうが安心です。

    相続放棄をしても相続財産の管理義務は残りますから、賃貸建物が破損している場合等の修繕行為は必要の範囲内で保存行為として認められますが、不必要な修繕等はするべきではありません。

    またどうしても修繕等しないといけないのかどうか判断つかない場合は、(相続人の財産からではなく)相続人固有の財産から費用を出せば安心です。

    相続放棄により新しく相続人になる者もしくは管理者に引き渡すまでの間は、賃料を受領したら相続財産として個人の財産とは別に管理しなければなりません。

    (2) 管理に関して注意すべき財産

    相続放棄をする予定若しくは、相続放棄をしたが新しい管理者に引き渡すまでの間、相続財産を管理しなければいけない(民法940条)のですが、(「相続放棄をした後に注意するべきこと」の1で詳述)財産別に注意することを説明します。

    ア 土地建物 

    被相続人名義の不動産を処分してはいけません。

    他人に譲渡したり、新規に賃貸してはいけません。

    例外的に一定の期間内であれば賃貸してよい期間があります(上記2のエの(ア)をご覧ください・・・単純承認となる可能性があり、注意が必要です。)

    被相続人の生前に既に賃貸されていた場合は、上記2の(1)のエ(ア)の「被相続人が貸主となっている賃貸借契約」を参照ください

    イ 預貯金 現金

    被相続人の預貯金は、引き出したり、被相続人の口座から他の口座への変更は原則しないでください。

    銀行等に口座名義人の死亡を通知すると、当該口座は凍結され、相続人全員が「相続手続きの申込書」を銀行に提出することにより、銀行口座の利用ができるようになりますが、上記手続は可能な限りしないようにしてください。
    (令和1年7月1日以降は、一定の範囲内で相続人単独で請求できます)

      また、被相続人の現金が発見された場合は、相続人の固有財産とは別個に管理して処分・費消しないように管理してください。

    ウ 自動車

    被相続人名義の自動車の扱いに関しては注意が必要です。

    自動車の名義人が誰かについては、車検証の所有者・使用者欄に記載があります。

    以下、場合に分けて説明します。

    (ア) 被相続人が使用していたが、他人名義の自動車の場合

       他人名義にもいろんな状況があります。

    他人から有償又は無償で賃借していた場合、そして自動車をローンで購入して、ローンの返済が終わっていない場合等以下、区分して解説します。

    a 他人から有償・無償で賃借していた場合

    車検証に所有者名が記載していれば、その所有者に返還すればOKです。

    b 自動車をローンで購入して、ローンの返済が終わっていない場合

    この場合、所有権は、ローン会社にあります。

    ローン契約の場合、車検証の所有者欄にローン会社が記載されているケースが多いです。

    この場合も、使用者でありローンの債務者である被相続人が死亡したことを連絡して自動車を引き取ってもらいましょう。

    もし、自動車を引き渡した後でも残債が残るとして請求された場合、「相続放棄」する旨を通知すれば、OKです。

    (イ)  被相続人名義の自動車の場合

    被相続人名義の自動車は、財産的価値があるかないかにより対応が異なります。

    基本的に財産手価値があるかないかは、自動車販売会社に持ち込んで、査定してもらって判断する方が多いと思いますが、基本的には自動車の減価償却的価値により判断します。

    自動車販売会社の査定は、会社により価値判断が異なるところ、客観的な指標が定められています。

    法定耐用年数

    ひとつの基準としては法定耐用年数という価値基準があり、それによると法定耐用年数(税法で定められている基準年数)は 小型/普通自動車は6年・軽自動車は4年となっています。

    一般的に普通自動車の場合は7年を経過していると価値がゼロと考えて差し支えないでしょう。

    a 財産的価値がない場合

    原則、管理責任は生じないはずですが、駐車場の費用(賃料や施設維持費)が発生する場合は、廃車にしたほうが良いです。

    その場合、自動車税の滞納があると廃車にできないので、滞納税金を支払わないといけません。

    滞納税金であれば、被相続人の財産からの支払いで問題ないですが、できる限り、相続人固有の財産から支払うほうが安心です。

    b 財産的価値がある場合

    原則、相続放棄したとしても新しい管理者に引き渡すまで、相続人に管理責任が生じます。その場合、当然、駐車場代等の費用の問題がでてきます。

    しかし、原則財産処分に該当するため自動車屋に売ったり、廃車にすることができません。

    相続人となる者全員が相続放棄してしまうと自動車の価値がある限り、永遠に維持費を負担しながら、管理しなければいけないのか?となります。

    基本的に、相続人がいない場合で相続財産を管理する必要がある場合は、「相続財産管理人選任の申立」を家庭裁判所に申立て、相続財産管理人を選任してもらい、事後は、管理人に管理を引き継がせることができるのですが、申立の費用や、管理人への報酬等、費用が発生します。

    価値が高くない自動車の場合、現実的ではありません。

    一つの方法として、自動車維持費用が負担になるのであれば、自動車を売って、代金を相続財産として別個管理するという方法も考えられます。

    (その場合、相続財産の処分とみなされる行為に該当するので、第3者に証人や立会人になってもらう等、後から法定単純承認とみなされない様、慎重に行うことが必要です)

    その場合、相場価格に比較して極端に安い金額での売却や無償譲渡は問題になるので、注意が必要です。

     

    3 相続放棄の撤回はできない

    相続放棄をした後に、マイナス財産を上回るプラス財産があることが判明したとしても、そのことを理由に「相続放棄の撤回、取消」はできません。

    相続財産については、充分に調査することが必要です。

    3か月以内に財産が調査しきれない場合は、下記の方法をとることができます。

    (1)家庭裁判所に「相続考慮期間の延長」の申し出(民法915条但書)

    利害関係人から家庭裁判所に請求することによって、3か月で定められている「相続するかどうするか判断する期間」を伸長してもらうことができます。

    (2)限定承認手続き

    限定承認とは、相続によって得たプラス財産の限度において、被相続人の債務などのマイナスの財産を相続することです。(民法922条)

    3か月の期間では、プラス財産が多いのかマイナス財産が多いのかわからない、若しくは、長期間かけて調査してもわからないと判断する場合は、限定承認手続きを行うことにより、プラスが多ければ、マイナス分を控除した分を相続でき、マイナス財産が多ければ、相続放棄手続と同一の効果となります。

    相続放棄をした後に注意するべきこと

    1相続財産の管理

    相続放棄をした後でも、相続財産に関しては管理義務があります。(民法940条)

    管理内容は「自己の財産と同一の」レベルで管理しなければなりません。自分の財産と同じものとして管理しないといけないという意味ですが、法律上の言葉で「善管注意義務」という「業務を委任された人の職業や専門家としての能力、社会的地位などから考えて通常期待される注意義務」に比較すると程度の軽い管理義務ということになります。

    いつまで管理すればよいのかという時期ですが、相続放棄によって相続人となった者が相続財産の管理を始めることができるまでとなります。

    もし、新たに相続人となった人が次々と相続放棄をしていった場合で結局相続人がいなくなってしまった場合、最後に相続放棄をした人は、いつまで管理するのかという問題になります。

    また、保管のための費用が発生する場合は管理者にとって重い負担となります。

    一つの方法は、相続財産管理人選任の申し立てを家庭裁判所にすることです。(民法951条)

    そして、家裁から選任された相続財産管理人に財産を引き渡すことです。

    しかしこの方法は、費用と時間がかかり、相続財産の価値が少ない場合は現実的ではありません。

    かといって法律上管理義務が消滅するわけでありません。

    管理者は管理を継続しなければならないということになります。一般的な解決策というよりは、ケースバイケースで対応しなければなりません。

    このようなことでお悩みの方は、個別にご相談ください。

    2 相続財産の処分 民法921条3項

    相続人が相続放棄手続終了後に相続財産の全部若しくは一部を隠匿(隠したり)密かにこれを消費したりしたときは、単純承認したものとみなされます。(民法921条3項)

    単純承認とは被相続人の権利義務を承継することを相続人が無限定に承認することです。

    相続したことになり、相続放棄の手続きが無効になります。

    相続財産の処分とは具体的に何が該当するか、どういうこと気をつければよいかということについては上記「相続放棄をする前もしくはする際に注意するべきこと」で詳しく解説しています。

    相続放棄について、又は、相続全般について、ご相談に応じています。

    お気軽にご相談ください

    参照条文

    民法
    第九百十五条

    相続人は、自己のために相続の開始があったことを知った時から三箇月以内に、相続について、単純若しくは限定の承認又は放棄をしなければならない。

    ただし、この期間は、利害関係人又は検察官の請求によって、家庭裁判所において伸長することができる。

    第九百十九条

    相続の承認及び放棄は、第九百十五条第一項の期間内でも、撤回することができない。

    2 前項の規定は、第一編(総則)及び前編(親族)の規定により相続の承認又は放棄の取消しをすることを妨げない。

    3 前項の取消権は、追認をすることができる時から六箇月間行使しないときは、時効によって消滅する。相続の承認又は放棄の時から十年を経過したときも、同様とする。

    4 第二項の規定により限定承認又は相続の放棄の取消しをしようとする者は、その旨を家庭裁判所に申述しなければならない。

    第九百二十一条

    次に掲げる場合には、相続人は、単純承認をしたものとみなす。

    一 相続人が相続財産の全部又は一部を処分したとき。ただし、保存行為及び第六百二条に定める期間を超えない賃貸をすることは、この限りでない。

    二 相続人が第九百十五条第一項の期間内に限定承認又は相続の放棄をしなかったとき。

    三 相続人が、限定承認又は相続の放棄をした後であっても、相続財産の全部若しくは一部を隠匿し、私にこれを消費し、又は悪意でこれを相続財産の目録中に記載しなかったとき。
    ただし、その相続人が相続の放棄をしたことによって相続人となった者が相続の承認をした後は、この限りでない。

    第九百三十八条

    相続の放棄をしようとする者は、その旨を家庭裁判所に申述しなければならない。

    (相続の放棄の効力)

    第九百三十九条

    相続の放棄をした者は、その相続に関しては、初めから相続人とならなかったものとみなす。

    (相続の放棄をした者による管理)

    第九百四十条

    相続の放棄をした者は、その放棄によって相続人となった者が相続財産の管理を始めることができるまで、自己の財産におけるのと同一の注意をもって、その財産の管理を継続しなければならない。

    第九百二十一条

    次に掲げる場合には、相続人は、単純承認をしたものとみなす。

    一 相続人が相続財産の全部又は一部を処分したとき。
    ただし、保存行為及び第六百二条に定める期間を超えない賃貸をすることは、この限りでない。

    二 相続人が第九百十五条第一項の期間内に限定承認又は相続の放棄をしなかったとき。

    三 相続人が、限定承認又は相続の放棄をした後であっても、相続財産の全部若しくは一部を隠匿し、私にこれを消費し、又は悪意でこれを相続財産の目録中に記載しなかったとき。
    ただし、その相続人が相続の放棄をしたことによって相続人となった者が相続の承認をした後は、この限りでない。

    第九百五十一条

    相続人のあることが明らかでないときは、相続財産は、法人とする。

    (相続財産の管理人の選任)

    第九百五十二条

    前条の場合には、家庭裁判所は、利害関係人又は検察官の請求によって、相続財産の管理人を選任しなければならない。

    2 前項の規定により相続財産の管理人を選任したときは、家庭裁判所は、遅滞なくこれを公告しなければならない。

    (不在者の財産の管理人に関する規定の準用)

    第九百五十三条

    第二十七条から第二十九条までの規定は、前条第一項の相続財産の管理人(以下この章において単に「相続財産の管理人」という。)について準用

    第八百八十七条

    被相続人の子は、相続人となる。

    2 被相続人の子が、相続の開始以前に死亡したとき、又は第八百九十一条の規定に該当し、若しくは廃除によって、その相続権を失ったときは、その者の子がこれを代襲して相続人となる。
    ただし、被相続人の直系卑属でない者は、この限りでない。

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