成年後見Q&A

           

 成年後見制度とは

認知症等により判断能力が不十分になった方が財産を管理したり、 契約等の法律行為をする場合に、困難な場合があります。

判断能力の不十分な方を保護する制度が成年後見制度です。

具体的には、裁判所から選任された法定後見人が被後見人(判断能力が不十分で後見される人)に代わり法律行為をしたり、法律行為につき同意を与えたりします。

少子高齢化が進み、高齢者の多くなる社会においては、今後、益々同制度利用の需要が高まると思われます。

 Q1 銀行預金の引き出しを断られた

私の母は高齢で認知症で判断能力がありません。

母の施設入所のための費用支払いのため、母の預金口座から引きだしたいと
考え、銀行に私が代理で引き出したいと伝えたところ、銀行は「ご本人が判
断能力ない場合、代理が無効になるので、払い戻しはできません。」といわ
れました。

 

お母様が意思能力(自己の法律行為について判断できる・事理を弁識する能力)がない場合は、お母様が行った法律行為が法律上無効となります。

よって、意思能力のない方がご自身で預金の払い戻し行為をすることも娘さんに依頼する行為も、法律上無効となる可能性があります。

(預金の解約や新たな預金口座の契約も無効となります)また判断能力が欠けているわけではないが判断能力が不十分な場合は、行為が取り消し可能となりますので、銀行側としては、そのような方に対しての払い戻しにつき難色を示すところが多いのが実情です。

この場合、家庭裁判所に申し立てをして成年後見人を選任してもらって、成年後見人に法律行為をしてもらうことが有効です。

成年後見人は、法律行為の代理権がありご本人の財産管理を行いますので、預金の管理を行いご本人の権利や利益を保護します。

           

参照 法定後見が認められる場合の本人の能力の基準
法定後見には「後見」「保佐」「補助」の3種類があります。

本人の判断能力の状態により上記の種類にわかれます。

「後見」は判断能力が欠けていることが通常の状態にある場合
「保佐」は判断能力が著しく不十分な場合
「補助」は判断能力が不十分な場合
において本人の状態に応じてそれぞれ申立てすることができます。

それぞれ、本人の権利の保護の様態が異なります。
(取り消し行為の対象や代理権の範囲等)

※ 判断能力とは、物事を判断することのできる能力のことです。

           

日常生活に関する行為の特則

成年後見人が行った行為(法律で定められた代理権による)については法律上有効とされます。また、被後見人(成年後見人による保護の対象となる人)が行った行為は、成年後見人が取り消すことができます。

ただし、日常生活に関する行為については、成年後見人の取消権の対象になっていない(民法9条但し書き)

つまり、「被後見人が日常生活に関する行為については法律上、有効に行えるし、行為を取り消すことはできない。」ということです。

具体例で言うと、被後見人であるAさんが日常使用する洗剤や食品をスーパーで買う行為は、成年後見人から取り消されることはないということです。

しかし、日常生活に関する行為とは通常考えられない行為(不動産を購入する、高級自動車を購入、高級衣料品を購入する、売却する場合も同様です)については成年後見人が取り消すことができますので、 売った者(もしくは買った者)は(売った商品を返却してもらうのと同時に)代金を返還(もしくは購入品を返却)しなければなりません。

日用品の購入のために必要な金銭を銀行の預金口座から払い戻しを受ける行為は、被後見人本人が有効に行えるために、この場合、銀行側が払い戻しに応じない行為は、法的根拠のない行為になりますので、預金口座開設契約の条項に従い、銀行側は払い戻しをする義務があるということになります。

また、日常生活に関する行為の範囲については職業、資産、収入、生活の状況や当該行為の目的等を総合的に考慮して判断するものと考えられます。

民法9条
成年被後見人の法律行為は、取り消すことができる。ただし、日用品の購入その他日常生活に関する行為については、この限りでない。

   

Q2  施設の入所

母が認知症になって自分で生活ができなくなったので、介護施設に入所
させることになりました。

娘の私が施設と契約して母を入所させることはできすか?

 

法律上、問題がないかという趣旨で回答しますと、以下のようになります。
(現実には、認知症の方の親族が施設側と契約して入所されるケースが多いようです)

娘さんが自分の名義で、施設と契約すること自体は有効です。

しかし、お母様が意思能力ない場合は以下の事態が生じます。

娘さんが自分の名義で、施設と契約する場合、施設側がお母様に対して介護サービスを受けさせることが契約の内容となります。

これを法律的には「第3者のためにする契約」(民法537条)といいます。

この「第3者のためにする契約」が法律上有効に成立するためには、第3者が契約の利益を享受する意思を表示することが必要となります。具体的には 第3者(この場合は母)が介護サービスを受けるという意思表示をするということです。

もし、お母様が意思能力がない場合であれば、この意思表示自体が無効となるので、契約は有効になりません。

契約を有効にするためには、お母様について成年後見の申し立てをして成年後見人を選任することが必要となります。

参照(民法条文上で定められている契約の有効性の意義)
何らかの事情で本人がサインできない状態にあり、介護サービス契約等を親族が「親族名」で代わりにサインしたとき、その契約が有効かどうかは、次のように考えられています。

 親族が、親族名で契約を締結することは当然有効です。

 しかし、その効力は原則として本人に及ぶことはありません。このような契約を「第三者のためにする契約(民537)」といいます。

民法第537条


契約により当事者の一方が第三者に対してある給付をすることを約したときは、
その第三者は、債務者に対して直接にその給付を請求する権利を有する。


前項の場合において、第三者の権利は、その第三者が債務者に対して同項の契
約の利益を享受する意思を表示した時に発生する。

 たとえば、親族が「親族の名前」で介護サービス契約書等にサインした場合、契約当事者=親族と施設(債務者)、第三者=本人ということになります。

 施設がなぜ債務者かというと、介護サービスを給付する義務がある者という意味で債務者と(法律上)呼ばれます。

 この場合、上記条文にそのままあてはめると、第1項は「本人は、施設(債務者)に対し直接そのサービスの給付を請求できる」となり、第2項は「本人の権利は、本人が施設に対してその契約の利益を受けるという意思を表示したときに発生する」(これを「受益の意思表示」といいます)となります。

 ここで注意してもらいたいのは、本人が「受益の意思表示」をすることによって、本人に対しても契約の効力が及ぶことになるという点です。

 この「受益の意思表示」ができない状態である場合、前述のように原則として契約の効力は本人に及ばないため、契約内容に「利用代金は本人が払う」と定められていたとしても、本人はその代金の支払義務を負いません。

 そこで「受益の意思表示」をするためには、本人に代わって意思表示をする人を選任する、成年後見制度を利用することが望ましいと考えられます。

                       

Q3 悪徳商法

私は認知症の母と同居しています。

日中は私が仕事に出かけるので、自宅に母は一人でいます。

先日、セールスの人間が家にきて、母に高級ふとんの購入契約にサイン

させたのですが、母は、契約について何も理解していません。

この契約について無効を主張できるのでしょうか?

 

訪問販売の場合はクーリングオフ等の消費者契約法や特定商取引法での対応もありますが、消費者契約法や特定商取引法の議論をする前に、契約をしたお母さまが意思能力がない場合は、契約自体が無効となります。

ただし、契約時にお母様が意思能力がなかったことを証明する必要があります。

具体的には医師の診断書等により意思能力のないことを証明することになりますが、契約時以前に医師の診断を受けていない場合には診断をするのは後日のことになるので契約時点で意思能力がなかったかどうか微妙な判断になる場合もあります。

また、あるときは正常な思考ができるが、あるときは意思能力がない状態になる場合は、契約時点で「意思能力があったのかなかったのか証明をすることが大変困難になります。

いずれにしろ、お母さまが悪徳商法や訪問販売にひっかかり損失を被らないようにして、安心して生活をするためには、成年後見人(又は他の法定後見)を選任してもらうことが一番よい方法といえます。

成年後見が開始されると、お母様が意思能力がない状態でサインした契約について成年後見人が取り消すことができるので、娘さんも安心して仕事に行くことができます。

           

参照

意思能力とは、自分の行為の結果を判断することのできる精神能力であり、意思能力の無い者が行った法律行為は無効となります。

法定後見の審判手続きでは本人の判断能力を基準にして判断されます。

判断能力とは、物事を判断することのできる能力のことです。  

   

Q4  遺産分割協議その他

  父が死んで、母と私と妹が相続人です。

  遺産分割協議をしようと思いますが、母が、認知症です。

  この場合遺産分割協議は有効となりますか?

 

認知症により意思能力がない場合や行為能力(単独で有効に法律行為をする能力)がない場合は、意思表示が有効となりません。

お母様が遺産分割協議に参加して協議した場合、遺産分割協議が無効または取り消しうるものとなります。

有効な遺産分割協議を行うには成年後見(又は他の法定後見)を申立てすることが必要です。

裁判所から指定された後見人(又は保佐人・補助人)がお母様の代理人となり協議に参加して有効な遺産分割協議となります。

 

   

Q5 親族による横領

私は母と別居していますが母は認知症で判断能力がありません。

母は私の弟と同居していますが、私が実家に立ち寄った折、母の預金通帳や
不動産を管理している弟に母の財産について聞いたところ、弟が勝手に母の
預金を引き出し、また母名義の不動産の一部を売却して、それらの代金や引
き出した金銭を弟の事業の借金の返済に充てていました。

私が実家から遠隔地に在住しているので私が母の実印や通帳保管しても、弟
が母名義の生命保険金を引き出したり、母名義の不動産を担保に(母の実印
を改印する等して)母名義で借金をする可能性があります。

予防する方法はありますか?

  

身内の方が事情により遠隔地にいて身近でお世話できないしまた財産を管理できない。

そして財産を管理している同居の親族が、財産を横領している。

その場合には、成年後見(又は他の法定後見)を開始することが一番良い方法です。

裁判所から選任された成年後見人が親族の利益のためではなく、被後見人(=この場合お母様)の利益のために財産を管理することになります。

      

   

Q6 浪費

私と同居している母は、認知症が進んで、自分の預金を全部下ろして、生活
に不要な物で高価な物を大量に買います。

買ったものは、1回も使わないで、放置します。

家の中は母の買った大量の不要物でいっぱいです。

しかも買った記憶は無いので、お金がある限り、買い続けます。

預金がゼロになってもどこからかお金を借りてきて、買い続けます。

こんな場合、良い方法はありませんか?

Q1のAで回答したように、お母様が意思能力が無い場合は、お母様が買い物した行為は 法律的に無効な行為なので、品物を返品して代金を返してもらうことができます。

しかし、事前に医師の診断書等を取得していない限り、買い物した時点で意思能力が無いことを証明することが困難な場合が多いです。

成年後見の申立てをして後見開始がされると(日常生活に関する行為を除いて)後見開始された時点以降の法律行為について後見人が取り消すことができます。

また、被後見人(母)が借り入れをした場合も同様です。

ただし、Q1で解説したように、日常生活に関する行為については、成年後見人は取り消すことはできません。

買い物した行為が「日常生活に関する行為」(スーパーで今日のおかずを買ったり、日用品を買う、家賃や水道光熱費の支払い)でなければ、取り消すことが可能ですが、日常生活に関する行為であるかどうかの判断が微妙な場合もあります。

例えば、外形的には日常生活に関する行為に該当するが、本人にとっては不要なものを 繰り返し、頻繁に購入する行為は果たして取り消しうるのか?
これについては判断が難しい場合もあります。

対処の選択肢の一つとしては、後見人が被後見人の財産を管理する上で、支出である生活費も必要最小限な分だけ渡す等して生活に破綻が生じないような管理をすることも考えられます。

成年後見人は、法律行為の代理権があり被後見人の財産管理を行いますので、預金の管理等を行いご本人の権利や利益を保護します。

そして被後見人が口約束や、契約で購入した買い物(代金後払いの場合)で、日常生活に関しないもので不要であると後見人が判断したものは取り消すようにする。 ということで被後見人の生活を守りながら、破綻も防ぐという方法が考えられます。

           

参照

意思能力とは、自分の行為の結果を判断することのできる精神能力であり、意思能力の無い者が行った法律行為は無効となります。

法定後見の審判手続きでは本人の判断能力を基準にして判断されます。

判断能力とは、物事を判断することのできる能力のことです。

 

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成年後見手続きの流れ」をご覧下さい。
 

成年後見

成年後見の手続きや法的制度について詳しく知りたい方は「成年後見」をご覧下さい。

わかりやすく説明しています。

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